喋りすぎる猫

【ミドル編】

【勝手に考察】大人になったわたしは、「ホットロード」の和希ちゃんのママを主人公にしたスピンオフ作品を読みたい。

別マ(別冊マーガレット)で「ホットロード」が連載されていた1986年~1987年、わたしは中学生でした。
主人公の和希ちゃんと、ぴったり同世代。
学年だとわたしがひとつ下です。
和希ちゃんと春山の、ちょっぴりハードな「ボーイミーツガール」に夢中でした。


これがもう、35年も昔のことなんですよ。
信じられます?
あのまま時が流れたとして、和希ちゃんももうアラフィフ。
和希ちゃんのママなんか、70歳ですよ!
あの、美しく儚げで、少女のようだったママが。70歳!



当時、感情移入する対象としてはもちろん和希ちゃん最強でしたが。
「最も好きなキャラは?」と訊かれると、今も昔もわたしは「和希ちゃんのママ」と答えます。


初登場のシーンでは、シビレましたね。
明かりを落としたリビングの床に、しどけなく座り込んでいる細いシルエット。
時計の針は、もうすぐ午後7時を指そうとしています。
ダイニング用と思しき丸いバーテーブルの上に、夕食の用意は見られません。


今日は
機げんがいい

このひとは
35才のくせに
すっごいお天気やで

いつまでも
お嬢さまで…

恋人と会った日は
かならずこの曲をきく

きょうは ママの 誕生日
あたしはママに
これをプレゼントしてあげる…

(和希ちゃん 心の声)


中学生の娘が帰宅しても、振り向きもしない母親の姿がそこにあります。
自分の誕生日を恋人と過ごしたママは、甘ーい余韻にどっぷり浸り中なのです。
「学校どうだった?」とか、ごはんの支度とか、そういう気分ではないのです。


ローボードに設置されたオーディオセットに、ママの意識の高さが窺えます。
サブウーファーの形状から、SONYのリバティでは?推測しているのですが。
どうなんでしょう。
当たり前ですが、テレビはアナログテレビです。
昭和ですねー。


そこに和希ちゃんが、「プレゼント」の爆弾発言を投下。


「あたし今日 万引きでつかまったよ」


さすがにハッと顔を上げるママ。
薄笑いを浮かべながら、和希ちゃんは続けます。


「連絡なかった?」


この時、ママは初めてこちらを、つまり和希ちゃんの方を見ます。
これが、なんかすごく色っぽいの。
和希ちゃんへの返事もいいですね。

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※「ホットロード」より画像お借りしました。


「さ…あ きょう他で仕事してたから」


「さ…あ」って。
この人は、万引きで補導されたという中学生の娘を、その場で問い質すことが出来ません。
和希ちゃんによると、宮市家ではそのまま何事もなかった模様。
翌朝もお互い何も言わなかったらしいです。
一緒に捕まったユッコちゃんちは、ママが怒鳴り散らかして大変だったようなのに。


このように、和希ちゃんのママは、思春期の娘と上手く向き合えていない。という設定。
その不安定な挙動から、読者からは「メンヘラ」とか「大人になり切れていない」とか言われがちです。
確かに、少女マンガに出てくる母親としては、なかなか一筋縄ではいかない人ですけど。
逆にリアル。


これも、漫画家紡木たくさんの描写力の凄さですよね。
35歳の等身大の女性を、ローティーン向けの漫画雑誌にそのまんま登場させるっていう。
和希ちゃんのママは、35歳のシングルマザーとして、ちゃんと1人分の人生を背負ってそこにいるのです。



作中の会話や和希ちゃんの「心の声」により、少しずつ紐解かれていくママの過去。
恋人・鈴木くんとのあれこれ。


ママと鈴木くんは、高校時代に彼女と彼の関係だったようです。
しかし何か「うまくいかないこと」があり、ママと鈴木くんはそれぞれ別の人と結婚しました。
ママは21歳で和希ちゃんを産み、その後数年で夫を亡くしています。


元カレ・鈴木くんと再会したのは、果たして夫の亡くなる前だったのか、後だったのか。
このあたりの事実関係も重要だと思うのですが、そこは語られていません。


和希ちゃんが、たった一つのパパの思い出として大事にしていた「ゆーえんち」と「あったかくて大きなパパの手」
実はそれは鈴木くんだったという、衝撃の展開もありました。


高校卒業後、ママと鈴木くんに何があったのか。
例えばですが、建築家を志す鈴木くんは他県の大学に進み、ママは地元で就職したとします。
もしかしたらママも、地元の短大くらいには進んだかもしれませんが。
環境が変わっても、2人の関係は順調に続くはずでした。
そして鈴木くんが一人前になるのを待って、結婚。
ていうのが、若い2人の未来予想図だったはず。


しかしママは、高校を卒業して3年目には和希ちゃんを産んでいるのです。
父親は鈴木くんではありません。
鈴木くんと遠距離になったことが、ママを不安定にしてしまったのではないかと、わたしは考えています。
結果、ママの身の上に「うまくいかないこと」が起こってしまった。


1970年代初頭。
携帯電話はおろか、プライベートの電話なんか学生が持つはずもありません。
太田裕美さんの名曲「木綿のハンカチーフ」(1975年)でも、恋人達は手紙でやり取りしています。
これも悲恋の歌ですね。



鈴木くんが別の女性と結婚していることから、ママと鈴木くんは1度はちゃんとお別れしたのではないでしょうか。
鈴木くんは、情熱はありますが、真面目な常識人であると思われます。
愛人関係を続けるために偽装結婚をするとか、そういう発想はないでしょう。
まさに断腸の思いで、ママを諦めたのではないかと想像します。


こうして別々の人生を歩むことになったママと鈴木くんですが、和希ちゃんのパパはその後数年で亡くなってしまうのです。
でもこのことを、ママが直接鈴木くんに知らせたとは考えにくい。
携帯電話もSNSもない時代。
繋がれないのです。
匂わせも不可。


ではどこから鈴木くんに伝わったのかというと、口コミ・噂ではないかしら。
だって、ママって結構イケてますよね。
オシャレで美意識が高く、子供を産んでもオバサンにならないタイプ。
大人になってからも、同級生男子の話題に上がることが多かったのでは?
「あいつ、ダンナしんだらしいぜ」「マジで!今フリーかよ!」みたいな感じで。
きっと鈴木くんの耳にも届いたのです。


そりゃもう、放っておけるわけがありませんよ。
タイミング的には、就職して2~3年、別の女性と結婚して間もなく。くらいですかね。
しかし、再会していきなり再燃!でもないでしょう。
鈴木くんだって一応、家庭を持ったわけですし。
そう頻繁に会ったり話したりは出来ません。
元カレ、相談相手として、節度を持ったお付き合いがしばらく続いたと思います。
子供連れて遊園地行きたいって言われたら、行っちゃうくらいの愛はありますけどね。


では、相談相手から「恋人」になったのはいつか。
和希ちゃんが小学校に上がって、1人でお留守番が出来るようになったあたりではないかと睨んでおります。
その頃には鈴木くんは事務所だか仕事部屋を持ち、ママとは夜中でも電話で話せるようになっています。
トークもぐっと親密になり、2人の距離は縮まっていったのでしょうね。


そして鈴木くんは離婚調停に至るのですから、ただの不倫ではないのです。
17~18歳の、大人になる直前の姿で愛し合った記憶というのは、強い。
ママはオッサンになった鈴木くんにも、常にあの頃の面影を重ねているのでしょう。
盛大にハゲたり、膨張したりしない限り、鈴木くんは永遠に鈴木くんなのです。
鈴木くんにとってのママも然り。
鈴木妻には気の毒ですが、こんなの誰も勝てませんよ。



しかし足掛け3年に及ぶ娘の非行が、ママを立ち止まらせます。
和希ちゃんに受け入れてもらえないなら、鈴木くんと会うのをやめる。
娘の気持ちを最優先に考えるという、ママの覚悟。
ママはね、メンヘラなんかじゃないんですよ。


こうして和希ちゃんと鈴木くんの顔合わせが実現するのですが、ここで初めて遊園地の思い出の真相が明らかになります。
大きなショックを受けてしまう和希ちゃん。
春山の元へ逃げ込みます。
以前ならここからまた大荒れですが、今回は春山の「親も生きてんだから」という言葉に、素直に頷くことが出来ました。
ママとの確執も、そろそろ雪解け。
公衆電話からママに「結婚してもいーよ」と伝えるシーンには、泣かされます。


そして物語はクライマックスへ。
和希ちゃんにもママにも、最大の試練が訪れます…。


あれから、30年以上が経ちました。
ママは、お元気かしら。
あのマンションも、築40年超えですね。
(和希ちゃんが小学校に上がってから、新築に入居したと仮定)
80年代の豊かさを残すリノベーション物件として、人気になってるかもね。
鈴木くんと2人、穏やかな暮しでありますように。


センスのいいママのことだから、インテリアは相変わらず素敵でしょうね。
和希ちゃん一家が帰ってくることもあるだろうし、あのLDKに大きな丸いダイニングテーブルが置かれてたりして。
で、50歳の春山より70歳の鈴木くんの方が、スマホ使いこなしてそう。笑


※文中、斜体テキスト部分「ホットロード」より引用させて頂きました。


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