喋りすぎる猫

【ミドル編】

グリム童話「かえるのおうさま」についてグダグダと考える。ハインリヒについても考える。

「蛙化現象」やら「蛇化現象」やら。
しょーもない言葉のせいで、「かえるのおうさま」についてしばし考え、話し合う時間を持つことになりました。
夫(仮)が「かえるのおうさま」についてほとんど知識がなかったため、ネットであらすじを拾って読み聞かせるところからスタートです。
YouTubeの絵本読み聞かせも再生しました。


概要を把握した夫(仮)の感想と疑問。
まず王子。
悪い魔女の魔法で醜い蛙の姿になってしまったのは不幸だったが、自分のことをあからさまに嫌っている姫に対してのアプローチが異常である。
蛙でなく、立派な王子のままだったとしても。
クセが強過ぎて嫌だ。


姫の方も、蛙との約束など端から守る気はなく。
何とか逃げ切ろうとするクズ。
王様(父親)に咎められて改心したフリをするも、王様の見ていないところで蛙を壁に叩きつけるという蛮行に及ぶ。
蛙にこの仕打ち。
明らかな殺意があるだろう。
結果、王子は元の姿に戻り、ふたりは恋に落ちる…だと?
これ本当にハッピーエンドなのか?


また、王子は翌朝には姫を連れて自分の国に帰って行くのですが。
この王子、王位継承権は何位だったのだろう。
悪い魔女の魔法で蛙の姿に変えられていた期間は、何年くらいなのか。
その間、王位継承権はどうなっていたのか。
急に婚約者を連れて戻って、混乱はないのだろうか。
王位継承権なんぞが出てくるところが、いかにも半世紀生きてきたオッサンらしい。


「悪い魔女」という、フワッとした言い方も気になった様子。
魔女の中によい魔女と悪い魔女がいて、王子は悪い方の魔女にからまれたのか。
あるいは魔女という存在が、絶対的に悪だったのか。
もしかして、魔女狩りが関係しているのか。
魔女裁判で負けた魔女が、腹いせに王子にいやがらせをしたのではないか。


夫(仮)の勢いに引きつつ。
ちょっと待て。
魔女裁判に負けた魔女、というのはおかしいでしょ。
あれは、普通の人が容疑をかけられて、負けたら魔女認定されて酷い目に合わされるんですよ。
「かえるのおうさま」に出てくる魔女は、魔法で人間を蛙に変えてしまう本物の妖術師。
魔女狩りや魔女裁判など、政治的なものを背景に持つ魔女とは概念が異なると思われます。


後にたどり着いた答えですが、「かえるのおうさま」は、下書きから完全版となるまでにかなり加筆されているそうです。
なんと、「悪い魔女に魔法をかけられた」というのも後付けなんですって。


当初、王子が蛙に変身したことについては詳しい説明がなかったのだとか。
自分の意思かもしれないし、誰かにやられたのかもしれない。
ぶっちゃけわからない。
でもそれだと都合が悪いので、一旦「何者かに蛙に変身させられた」と濁し、最終的に「悪い魔女に…」になったようです。


何が都合が悪いのかというと、醜い蛙から元のイケメン王子に戻るくだり。
ここをなんとか正当化して「めでたし」とするためには、「変身させられていた」ことにする必要があるのです。
蛙が嫌われ否定され、挙句殺されることで、中の人(王子)が解放される。
この流れであれば、人間性があやしい姫も、「ボクを森の泉から助け出してくれた唯一のひと」となるのです。
はー、なるほど。


しかし、まさか自分からすすんで蛙に変身していた可能性があったとは!
わたしも驚きですが、ハインリッヒだって嘆き悲しみ、胸が張り裂けそうになっていましたよ。
本当に張り裂けてしまわないよう、心臓に鉄の輪を3つもはめていたほどです。


ハインリヒとは、今回初めて知った「かえるのおうさま」の登場人物。
王子の忠実な家来とのことです。
登場はラストシーンのみ。
8頭の白い馬が引く馬車に乗って、王子と姫をお迎えにやって来るハインリヒ。
知ってました?
わたしが子供の頃読んだ絵本には、出て来ませんでした。
勉強になりました。


さて、ここで。
夫(仮)が口にしていた「王位継承権問題」が、わたしの中でにわかに頭をもたげてきたのであります。
忠臣ハインリッヒが仕えたこの王子。
実は王様になるのが嫌だった。
もしくは血で血を洗う権力争いに嫌気がさしていた。
それで、ある日蛙になって逃げちゃったのでは?


ハインリヒは発狂したでしょうね。
「王子が蛙になって逃げました」
そんなこと王様や王様直属のえらい人達に言えるはずありません。
責任を追求され、重い罰を与えられるに決まっています。
また、王子が王位を放棄してしまうことで、ハインリヒ自身の出世の道も閉ざされてしまいます。


何としても王子を人の姿に戻し、王位を継がせるべく推し続けなければならない。
一応長男ではあるが、蛙に変身するような阿呆であることが王様や他の家来、国民にバレてしまうと王位継承権が危うい。
追い詰められたハインリヒ。
ストレスでハインリヒの動悸は乱れ、その激しさで心臓が破れてしまいそう。
ハインリヒはそれを抑えるために、鉄製のストッパーを3本胸に巻き付けました。


王子を元に戻す方法を入手したハインリヒは、入念に策を講じます。
相手役についても慎重に調査を重ね、これぞという人物を見つけ出しました。

①隣国の王様の末娘を、蛙王子の潜伏先である森の泉のほとりにおびき出し、姫が大事にしている金の鞠が泉に転がり落ちるように仕向ける。

②鞠をなくして泣いている姫に蛙王子を接近させ、取り引きをさせる。※蛙王子には、美しい姫のペットとして楽しい生活を送るプランを言い含めておく。

③予定通り姫が条件を無視してお城に帰ってしまうのを見届けてから、ハインリヒは隣国の王様に謁見する。

④王様に「これからお姫様を訪ねてお城にやって来る蛙は、わが国の王子である」と明かす。「蛙の姿をしているのは、心根の優しい姫を探しているから」。同時に、お互いの国にとってたいへん有益になるであろう政略結婚についても、たっぷりとにおわせる。

⑤蛙王子を泉から連れ出し、夕食時を狙って再びお城へ。既にその気の蛙王子は、空気の読めない言動を繰り返し、姫をことごとく不快にさせる。

⑥「蛙との約束を守れ」などと信じられないことを言い出す父親に絶望し、姫のイライラは絶頂に。王様の目が届かない自室で蛙王子と2人きりになると、ついに爆発。蛙王子は固い石の壁に投げつけられて、無事死亡。

⑦蛙パーツが消滅することで、王子復活。

⑧ハインリヒの読み通り、王子も姫もさっきまでのことなどすっかり忘れていいムード。王子も王子だが、聞きしに勝る浅はかな姫である。

⑨王様にはあらかじめ知らせておいたので、話は早い。即婚約。

⑩翌朝、王子と姫を馬車に乗せて帰る。さあ、ここからが腕の見せ所!


こうしてハインリヒは、頭お花畑のふたりの側に末永く仕え、裏では国の政治を好きに操っていました。
影の国王として全国民から恐れられ、さからう者など誰もいませんでした。
めでたしめでたし。


いやー、ハインリヒがわたしの脳内で暴れてる。
あんた一体何者よ。


ちなみに、「悪い魔女に〜」の部分が後から書き足されたものだとまだ知らない夫(仮)の考察。
「とんでもなく性格の悪い姫と一生添い遂げるところまでが、魔女の呪い」だそうです。
これはこれで面白い。


どうであれ、ディズニープリンセスにはなれそうにない「かえるのおうさま」のお姫様。
オツムのレベルは白雪姫と変わらないと思うんですけど。
あちらは悪気がないですからね。
ま、あの姫だったから。
王子は元の姿に戻れたのです。
心優しい白雪姫やシンデレラだったら、こうはいかなかったはず。
なんとも不思議なハッピーエンド!